貴方を思わない日なんて一日たりとありませんでした。
シア……
彼女を忘れられず、けれどそんな私の心とは関係なく戦争は続いている。
赤軍を落とすことは容易い。
そう、彼女と娘がそこにいなければ。
大将たちの鬼のような強さを上手く活かせば、少しの兵力でもって赤軍大半を落とせるだろう。
そんな折、イザナギ様と姫の気まぐれで拾われた異種族とのハーフの子供。
その子が現在は小隊を任されるようになったそうだ。
会ったことはなかったが、異種族と聞くと自分の子を思い出す。
男の子だという話だったから、マカラインみたいな子ですかね?
そんなことを暢気に思っていた。
ところがある日、兵力500という僅かな部隊でもって赤軍の一帯を攻め落とせとイザナギ様から下知があった。
例の子の力量を測り、私の後釜に据えるか、もしくは二人目の参謀として迎え入れるかということだった。
私が子供に負けるとは、きっとイザナギ様も思っては居られない。
けれど、私は何れ殉職(死)するか退役するだろう。
今のままでは後継がいない。
それを思ってのことだろうと勝手に思っていた。
例の子も参謀という地位(イス)を欲しがっているふうな言葉を聞き、私はそれも悪くないと思っていた。
ただ、500という兵で、赤軍を落とすとなれば慎重に行かなければいけない。
たとえ我が軍の兵士が死を恐れぬ屈強な戦士たちであったとしても、簡単に死なせてはいけない。
兵は人であって駒ではないのだから。
もし、それを忘れれば我が軍は全滅する。
たった500、されど500。
赤軍には新鋭の参謀がいるとは風の噂で聞いていた。
彼の地の参謀は若い割りには中々頭の切れる者だと、現在の戦況を見ても解る。
まぁ、亀の甲より年の功といいますから、そう簡単に作戦通りにはさせませんが。
けれど、若い目は早めに摘んでおかなければ、のちのちこちらの脅威となるかもしれませんね。
こちら側にいたのであれば、その才を活かしてあげたかったのですが…残念です。
敵軍の才知溢れる若者を望んでも詮無いことですし…ね。
もし、私が赤軍の参謀なら…Cポイントを狙ってくるでしょうね。
それならば、それを利用させてもらいましょうか。
願わくば、彼女たちがその中に居ないことを。
結果、私は500の兵でもって、敵(赤軍)2000の兵を落とした。
我が軍の被害は死者は辛うじて居らず、重軽傷者は約130人にとどまった。
そして、彼の方は……。
廊下で、異種族と見える男の子とすれ違う。
私の背中に向かって、彼はこう叫んだ。
『アンタのその地位(イス)、オレガもらう!!』
「楽しみに、していますよ」
自然と沸き起こる笑みを抑えつつ、私はそう答えた。
あぁ、楽しみですね。
若い世代が育っていくのは。
彼はまだまだ私に力は及びませんが、何れ私を超えてくれるでしょう。
多分、近いうちに、彼は此処へ上って来る。
そんな予感がしています。
4年後。
彼が参謀になってから、当時の思い出話しなんかをしたりして。
「貴方があの後、物凄く怒っていたと女官に聞いて知ったのですが、別に私はバカにしていた訳ではないんですよ?」
からかうようにそう告げると、物凄く怖い目つきで、彼がこういう。
「は〜ん?だったら、なんだっていうんじゃん?」
「嬉しかったんです」
「は?」
「若い世代が、育っていくことが。成長を見るのが楽しみと言いますかそんな感じです…自分の子供みたいに感じているんですよ」
「は?それはおかしいだろ。アンタ、俺よりは多少年上かもしれねぇが」
(…でも、この男いつから軍にいんだ?俺が入ったころには、凄く頭の切れる参謀が居るって話はずっとあったような…?)
「多少って…、私これでも貴方の倍は生きてますよ?」
正確には倍以上ですが。少しだけ、鯖よんでもいいですよね?
もうじき50才が来るおっさんに向かって多少年上って…私からかわれているんでしょうか?
私が童顔だからですかね?
「ちょっと待て、倍って40?そんな年には見えねぇじゃん、アンタ」
(待て待て、その外見で40とかねぇわ…つかおっさんがそんな肩どばーっと出した服着るか??)
「あ、疑っていますね?私、童顔だという自覚はありますが、そこまでないでしょう?」
「いや、童顔つーか俺と同い年くらいにしか見えねぇけど?」
「ちょっと、からかうのもいい加減にしてくださいね?」
「からかってるのはそっちだろ?」
「え?」
【終わり】
古杉さん宅キジョウくん
焼蕎麦さま宅イザナギ様
紫祈さま宅ヴィオラ様
お借りしました!
そして、プロフの鏡ネタに続く