好きな人がいる。

多分、好きな人がいる。


何で多分なのか?

解らない。




『自分の心なのに、私はまだ解っていないんです』






いつものように参謀の執務室の扉を開ける。
仕事はよくサボるのに、彼は何故かいつも私より先にそこに居る。

早くきたつもりでも、何故かいつも彼が先にそこに居る。

「おはようございます」
「あー、はよー」

気を取り直して私は挨拶する。
なんだか眠そうな顔で自分の席ではなく応接用のソファに寝転がってそういう彼。

彼の行動は基本的にしたいこととしたくないことが丸わかりというか…彼がココに配属になってからというもの、 私はどうも落ち着かない気持ちで居た。

自分の仕事を他人に押し付ける、仕事中に勝手に外出する。
人にいたずらをする、仕事中に寝る。
好きなことをさも当然の権利だといわんばかりにやる等々。

そして、それについては私に一任するとして、イザナギ様や姫からのお咎めはなしと来ている。
あぁ、なんだが、上からして彼を甘やかしている気がする。


『いえ、きっと筆頭は私なのでしょうね』


最初の頃は私を避けている節が多々あった彼。
少しずつ成長していくのを我が子を見守る気持ちで見ていた。
いつの間にか身長も殆ど同じくらいになり、精悍な顔つきに…大人びた表情をするようになった。





『ああ、子供はこうして大人になっていくのですね…』




そう、思っていたのも束の間。




「なぁ、アンタさぁ、俺のモノになれよ」
普段は見せないような満面の笑みで、何事もなげにそういう彼。
私は最初、意味を解することができなかった。
「え?」
今度は普段するように、人を小バカにしたようにニヤニヤと口元に笑みを作ってこう言った。
「俺の恋人になれよ」
「…………」
頭の中が真っ白になって口をパクパクとただ動かすことしかできない。
「え…い、今、なんて…?何て仰いましたか、貴方は…?」
狼狽しつつもそれを告げるのがやっとで。

彼が私をそんなふうに見ていたなんて少しも気付かずにいたから…。

彼を決して恋愛の対象に見たことはないつもりだった。
でもいつもどうしても彼にだけ甘くなってしまう自分に疑問を持っていたりもした。
彼に我が子を重ねているというのは多少自覚はあったけれども、 それだけではない感情がなかったとは言い切れないのも事実で。


これが恋だなんて解らない。

まだ、妻…いえ、元妻(シア)を愛しているし…同時に二人を好きになるなんてそんな不誠実なことは、私はできない。
そう、思っていたのに……。


けれど、私を抱き寄せたその腕が…、とても頼りなくて、けれどとても暖かくて。
「はい」
気付いたら頷いていた。



それから何が変わったかというと特に変わるでもなく、相変わらず仕事はサボる、無断で外出、 探しに行くと城下にフラリと散歩に行ったり、FOX中将と井戸端会議していたり。


はぁ。


けれど、少しだけ変わったことと言えば、彼が私を名前で呼ぶようになったとか…やはり概ね『アンタ』だけれども、 スキンシップが過剰になったりだとか……いえ、あれは過剰の範囲を超えている気が…するわけだけれども。



いやいやいや、過剰というか寧ろセクハラ?なのでは無いでしょうか?



キスされたくらいで逃げ出したくなるなんて、私はどこの乙女ですか…。
これでもキスなんてそれこそ数えるのもバカらしいくらい彼女としたはずなのに。
思春期の子供みたいに、初心な恋愛をしていると思います。
自分でもこれくらいでと思うんです。
でも、彼が相手だと、何故か鼓動が早くなって恥ずかしくて……ああ、私は一体どうなるのでしょう?
何だか前途多難です。







後日談

「俺の親父にくっつくな!この●●野郎!!」
「あぁ?アンタに関係ねぇだろ?んなこと言われる筋合いはねぇぜ」
うちの子と恋人(彼)が盛大に仲が悪いことが現在の一番の悩みです…はぁ。



まぁ、自分の父親が男と恋人関係にあるなんて、私がマカラインならやはり嫌ですけれども。
こればかりは何れは認めて貰うように……なることなんてあるんでしょうか?




【ムリヤリ終わる】

古杉さん宅キジョウくん
音さん宅FOX中将
焼蕎麦さま宅イザナギ様
紫祈さま宅ヴィオラ様
お借りしました!